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やまなかときわぞうし
山中常盤双紙
寺田 寅彦
「セルパン」1934(昭和9)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,649 字 · 4 页
岩佐又兵衛作「山中常盤双紙」というものが展覧されているのを一見した。そのとき気付いたことを左に覚書にしておく。
奥州にいる牛若丸に逢いたくなった母常盤が侍女を一人つれて東へ下る。途中の宿で盗賊の群に襲われ、着物を剥がれた上に刺殺される、そのあとへ母をたずねて上京の途上にある牛若が偶然泊り合わせ、亡霊の告げによってその死を知る。そうして復讐を計画し、詭計によって賊をおびき寄せておいて皆殺しにする。後日再び奥州から大軍の将として上洛する途上この宿に立寄り懇ろに母の霊を祭る、という物語を絵巻物十二巻に仕立てたものである。
絵巻物というものは現代の映画の先祖と見ることが出来る。これについては前にも書いたことがあったが、この山中常盤双紙は、そういう見方の適切なことを実証するのに好都合な一例と見ることも出来る。
絵巻物の色々な場面の排列、モンタージュまた一つの場面の推移をはこぶコマ数の按配、テンポの緩急といったようなものに対する画家の計画には、ちょうど映画監督、編輯者のそれと同様な頭脳のはたらきを必要とすることがわかる。
映画としてのこの絵巻のストーリーは、猿蟹合戦より忠臣蔵に至るあらゆる仇打ち物語に典型的な型式を具えている。