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やまつばき
山椿
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页
そして明るくなった光りを楯のように、正座して頭を垂れた。主馬は構わずその側へいって立ち、荒い呼吸の鎮まるまで暫く待った。するときぬが絶入りそうな声で云った。
「わたくし、母の喪が、まだ明けませんので――」
これは無警告の然も手厳しい足払いに似た言葉だ。一瞬にして火は消え、血は冷めた。主馬は挫かれたみじめな気持で、然しその言葉に辛くも救いを感じながら、やや久しく沈黙した。
「もっとお互いにうちとけよう、そんなことまで云いそびれるなんて自然じゃない。――男はどこかぬけているものだ、細かいことや気持の綾などわかりにくい、黙って許りいないで、不満や希望はどしどし云って呉れなければね、きぬは梶井の主婦なんだから、わかるだろう」
きぬはそっと頷き、「はい」と答えた。主馬はなお云いたいことがあった、然し言葉にするとちぐはぐなものになりそうだ、彼はできるだけ劬りを籠めて、こう云いながら立った。
「さあおやすみ、驚かせて済まなかった」
彼は数日してきぬの亡母の喪が二月はじめに明けることを知った。喪の明けるまで良人に許さないという習慣が世間にあるかどうか、彼はまるで知らないし、多少疑問もあった。