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さざんか

山茶花

佐左木 俊郎

「文章倶楽部」1927(昭和2)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,001 字 · 10 页

青空文庫

「もう沢山だ。おもん、こんで沢山だ。」

「ほんじゃ、ゆっくり休ませえ。薬も拵えで置ぎしから。」

おもんはこう、水洟をすすりながら言って、台所へ戻った。これから、彼女も稲を扱かなければならなかったのだ。

平三爺が、床にもぐり込んでから間もなく、町の操三郎という男がやって来た。以前、鉈や鎌などを売りに、この村へ出入りしていたが、それから三四年姿を見せずにいて、最近また、稲扱き機械を売りに歩き廻っていた。操三郎は、永いあいだ目をつけていた長作の家の山茶花を、この前に来た時は、売れと言っていたが、今日は、稲扱き機械と取り換えてくれるようにと言って、執拗に頼むのであった。

「駄目だ! 機械は、ほしいにあ、ほしいが、この木は、爺つあまの……」と長作は、同じことを繰り返した。

「ほだから、まず、爺つあまに訊いてみせえ。」

「駄目だったら、爺つあまが、今、病気だし、この木は、大切にしてんのだから。」

「ほんじゃ、爺つあまに、おれ、直接に、訊いで見んべかなあ?」

操三郎は、山茶花の樹の下から、平三爺の寝ている部屋の前の方へ歩いて行った。長作は、手をかけてまで引き止めるわけに行かないので、ただ、その男の後に跟いて行った。