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おかくらせんせいのおもいで

岡倉先生の思い出

和辻 哲郎

「帝国大学新聞」1936(昭和11)年1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,873 字 · 4 页

青空文庫

というようなことを言い出した。そうして呆然に取られている我々に、あの三尊を初めて見た時の感銘を語って聞かせた。特に先生が力説したのはあの像の肌の滑らかさであったように思う。あの像もまた単に色や形をのみ見るのではなくして、まさしく触感を見るというべきものである。それもただ銅のみが与え得るような、従って大理石や木や乾漆などにはとうてい見ることのできないような、特殊な触覚的の美しさである。しかもそれが黒青く淀んだ、そのくせ恐ろしく光沢のある、深い色合と、不思議にぴったり結びついている。そういう味わいに最初に接した時の驚嘆――「あの驚嘆を再びすることができるなら、私はどんなことでも犠牲にする」。この言葉は今でも自分の耳に烙きついている。先生は別にそれを強めて言ったわけでもなければまた特に注意をひくような身ぶりをもって言ったわけでもない。が、その言葉には真実がこもっていた。そうして我々はまざまざとその味わいを会得することができたのである。

こういうふうな仕方で我々はいろいろの味を教わった。自分はその時の印象によってのほか岡倉先生を知らない。ひそかに思うに、あれが岡倉先生の最も本質的な面であったのであろう。