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いわなみぶんころん
岩波文庫論
岩波 茂雄
「東京帝国大学新聞」1938(昭和13)年9月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,581 字 · 6 页
私は及ばずながらもこの理想を実現しようと心がけ、一般単行本に対するよりも、さらに厳粛なる態度をもって文庫の出版に臨んだ。文庫の編入すべき典籍の厳選はもちろん、編集、校訂、翻訳等、その道の権威者を煩わして最善をつくすことに人知れぬ苦心をしたのである。従来行なわれているものをそのまま編入すれば便宜なる時も、よりよい原稿を得るために新たに最適任者に懇請して数年を費やしてようやく刊行するに至った例も少なくない。しかるにこの態度は今もなお一般に理解されず、往々にして著者から謙遜のつもりで文庫にでも入れてもらいたいなど出版を申し込まれる場合がある。私は単行本には引き受けられても文庫には引き受けぬといって拒絶するほど、文庫を尊重愛護するのである。
典籍の範囲をいずれに限定すべきか、従来既刊の岩波文庫を見るに必ずしも標準が一定しなかったうらみがあるが、今後の方針としては古典的価値の水準をますます高めるとともに、厳選方針を強化することにした。経済的価値高くとも本質的価値乏しいものはこれを編入しないことに特に意を用いるとともに、経済的価値低くとも古典的価値の豊かなるものはつとめて編入し、この点において岩波文庫本来の特色を発揮しようと思っている。