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とうげ

峠

土田 耕平

「童話」コドモ社、1924(大正13)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,100 字 · 7 页

青空文庫

鎌形のお月さまは全く山をはなれて、うすいけれどもするどいそのお光が四人の姿を照らしました。

しばらくの間、みんな黙っていました。そのうちにお父さんが、

「ああ千代子は眠ったね。太郎も一眠りしてはどうかな。」と言いました。太郎さんは、目をつぶりました。すると、どこか遠くの方で、

カラカラカラ、カラカラカラ。

と氷の割れるような音がきこえます。

「あれは何?」

と太郎さんは、目をつぶったまま言いました。

「川の音だよ。」とお父さんが言いました。カラカラカラと、その音が近よってくるように思われましたが、やがて急に聞えなくなってしまいました。太郎さんは眠ったのであります。

目をさまして見ると、夜はすっかり明けはなれていました。空のお星さまは一つ残らず消えてしまい、お月さまがただ白く形だけのこしていました。夜は見えなかったのに、山のあちこちに、雪がまだらに模様を形づくっていて、枯れた木立や、赤さびた杉の木が目につきました。あたりは、しんとして、何のもの音もありません。

太郎さんは、さっき眠る前に聞いた川の音を思い出して、

「川はどうしたの!」

と聞きますと、

「あれはもうずっと山のかげになってしまったのだよ。