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とうげ
峠
土田 耕平
「童話」コドモ社、1924(大正13)年4月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,100 字 · 7 页
」というお父さんの返事でした。
「峯はまだ遠いの?」
「もうじきだよ。あの山のかげ。」
とお父さんが指さす方を見ますと山の鼻がけわしく出張って、道はそのかげにかくれています。
お父さんの息が、真白く煙草のけむりかなどのように見えます。太郎さんは、毛布の中から顔を出しました。すると、太郎さんの息も、真白く鼻のさきにひろがって見えます。外套や襟巻のまわりには、息が凍りついて、雪でも降ったようでした。お母さんはお父さんと並んで歩いて居ましたが、その襟もとはやはり真白くなっていました。千代子さんは、毛布の中にすっかり顔をかくして眠っています。
「あれもうあんなにお日さまがさしてきました。」
とお母さんが言いました。見あげると、山の上の雪が、きらきらとかがやいています。お日さまの光は、みているうちに、あちらの山こちらの山とひろがって行きます。とうとう道の上までさして来ました。
山の鼻をまわると、道ばたに小さな家が一軒ありました。古びた縁がわに、お日さまの光が一ぱいにさして、雨戸はかたく閉められてあります。それが峠茶屋でした。冬のうちは里におりてしまって誰も居ないのであります。