轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

とうげ

峠

土田 耕平

「童話」コドモ社、1924(大正13)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,100 字 · 7 页

青空文庫

「ずいぶん寒かったな。」

「ええ。千代子が泣いた時には、わたしも泣きたいようでした。」

こんなことを言いながら、縁に腰かけて着物の襟をなおしたり帯をむすびなおしたりしました。

茶屋の前は、日あたりがよいので、土が乾いて暖かそうに見えます。太郎さんは、元気よく大股に、そこらを駈けまわりました。千代子さんも、太郎さんのあとについて、あぶなそうな足つきでとび歩いていましたが、やがて、道ばたへかがんでしまいました。何かじっと見ています。

「何をしているのだろうね。」

とお母さんは、縁をはなれて、千代子さんのそばへ行きましたが、

「まあ、菫が咲いていますこと。」

と、驚き声に言いました。

「ドレドレ。」

と、お父さんも立って行きました。太郎さんも、道のむこうがわから駈けて来ました。 枯芝の中にたった一つの菫が咲いているのです。あたりの山々には、まだ雪が深く残っていますし、日かげには霜柱が一ぱい立っていますのに、もう菫の花が咲きました。

「やっぱり春ですね。」

とお母さんが言いました。そして、親子四人のものは、長い間その一つの菫をながめていました……。

太郎さんは、成人してからも、その菫のことをはっきり覚えていました。