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とうげ

峠

土田 耕平

「童話」コドモ社、1924(大正13)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,100 字 · 7 页

青空文庫

「さあ、ここで一休みだ。」

とお父さんは、外套をぬいで、太郎さんを縁の上におろしました。

「あたいも下りる。」

とお母さんの背なかで、千代子さんの声がしました。

「おや、千代子はもうお目ざめだったの。」

とお母さんは笑いながら、千代子さんを縁の上におろしました。

太郎さんと千代子さんは、縁の上にならんで立ちました。今まで登ってきた道が、目の下の谷底に見えかくれして長くつづいています。

「お家はどっちだね。」

とお母さんが言いましたが、千代子さんは、首をかしげて分らぬという顔つきをしていました。太郎さんが、

「あっち。」

と遠い山のかげを指さしました。

「ここからは道が平だから、太郎はお歩きよ。」

と、お父さんが包みの中から、小さな藁草履を取り出しました。太郎さんはそれをはいて、縁からとびおりました。

「あたいも歩く。」

と千代子さんが言いました。

「おまえは歩けまいが、まあ履いてごらん。」

とお父さんは、もう一足の草履を出しました。千代子さんは、それをお母さんに履かせていただきました。夜あけ前のあのきつい寒さは、すっかり忘れたようになりました。お父さんもお母さんもニコニコして楽しそうでありました。