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とうげ

峠

木暮 理太郎

「山と渓谷」1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,587 字 · 10 页

青空文庫

に山越えてという言葉が多いのを見ても明かであり、

周防なる磐国山を越えむ日は手向よくせよ荒し其道

とあるものなど最もよき例であろう。唯それが山名や地名と結び付いて、固有名詞となった例を見出し得ないのは残念である。或は記録には現わされていないが、其頃既に民間には固有名詞として用いられていたものがあるか否か、これは研究を要する問題であるにしても、今日一般に峠と呼ばれている者の中には、元は越えであったものが相当多かったろうという考は許されようか、現に清水峠なども私の地方では明治の半頃まで清水越の名で通っていた。

越えが峠よりも古い名であることは確らしいが、これも亦峠と同様に高度には関係なく用いられているようである。尤もこの語は、坂が土地の傾斜の名であり、峠が坂の頂きをさす名であって、夫を上下する行為とは少しも交渉がないのとは違い、進行する動作をあらわす意味が含まれていることは、実際に即したうまい名であると感心する。

峠と書いてタワ又はタヲと読ませているものが中国には可なり多く、四国には滑峠、天ヶ峠の如くトウと読ませているものさえある。これは勿論山丘の鞍部を意味する方言に、峠の字を宛てたものに過ぎまい。