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しまもり

島守

中 勘助

「犬 附島守」岩波書店、1924(大正13)年5月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,146 字 · 37 页

青空文庫

また一本のマッチのほかに藁の帯をした束から一枚のつけ木をぬきだしてそのさっとひいた硫黄の色、泡だちながら燃える紫の焔、つんと鼻をつく強いかおりのためにその一枚を無駄につかう。燃えたつ火のなかへ三つ四つ手づかみに投げこむ炭のおこるころには杉の葉は灰に、木屑はほどよくおきになってそのうえに土瓶がのせられる。掃除をして餅の黴をけずり、玉子や茶道具をそばにならべ、小皿に醤油をうつすじぶんにはちょうど湯がわく。そこで火箸を火のうえにわたして餅をのせ、その焼けあんばいによって焜炉の扉のかげんをするのをひとりで興がりながら端から醤油をつけてたべる。それから玉子をのみ、豆板をたべ、茶をすすって朝の食事をおえ、ひと休みののち食器をかたづけるまで火をたきつけてから約一時間半を費す。一晩のうちにからになった胃のなかへ甘い、鹹い、渋い食物を充分につめこんだ満足はたとえようもない。小憩ののち読書、もしくは日記。時間と手数のために昼飯をはぶき、もし暖かならば南の浜へおりて体をふく。膝ぶしぐらいまで水にはいり、摩擦によって充血した皮膚を日光にあてまた微風に冷しながら四方の山を眺める気もちはまことに爽快である。