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しまもり

島守

中 勘助

「犬 附島守」岩波書店、1924(大正13)年5月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,146 字 · 37 页

青空文庫

――池田さんへ寄ったらほかほか湯気のたつ箕のそばでおばあさんが麦を蒸していた。ねせておいて醤油をつくるのだそうだ。秣山へゆく道は灌木の岡にそうて蔭になり日向になりうねうねとうねってゆく。人どおりのないのと岡がせまってるのとで斑尾の道よりいっそう淋しい。たまにゆきあうお百姓たちも村の人ではあろうが見知らぬ顔ばかりである。とある山蔭で粗朶を背負ってくる娘さんに逢った。十六、七の痩せぎすで、まみえと目のあいだにほんのり上気して、色白の頬に汗がひとすじ流れていた。彼女は小鳥かなぞのようにおじけてちらりと見た眼を胸のへんにつけながらおずおずとすぎていった。田の畦や湖ぎわに枸杞もまじって赤い実が沢山なってるのをよくみればひとつひとつ木がちがう。

秣山――南の岡――は美しい岡である。まどろむように横わった草山のあちらこちらに落葉したのや黄葉しかけた灌木が小松の緑にまじってるのがちょうどいろいろの貴い毛皮をもった獣が自然に睦みあって草をくってるようにみえる。羊歯は枯れたが女郎花はまだ咲きのこっている。うす紫の小鈴をつらねた花の名はなにか。松虫草のなかをゆくと虻の群が一斉に羽音をたてて飛びあがる。