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しまもり
島守
中 勘助
「犬 附島守」岩波書店、1924(大正13)年5月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,146 字 · 37 页
夕。雨はやんだが晴れもしない。燈明をともしにゆく。葦の葉のひと葉もそよがず入江も淵ももの凄いほど淀んでいる。山には灰色の雲がきれぎれにまつわって小揺ぎもしない。後ろの木の梢に啄木鳥が二羽もきて競って叩くのをきくともなくききながら水の底を眺めてると葦の芽が水面へはなかなかとどきそうもないのに穂さきを天にむけ力をこめて突き出ようとしてるのを そんなに日向がいいものかしら と思う。湖が光って小波が立ってきた。汀がちょろめき、葦がゆれ、やがて木の葉が蝉の翅のようにふるえて鳴りはじめる。まつわってた山の雲はいつとはなしにほどけて山をはなれて漂ってゆく。北浦には波がよせながら南の浦は魚の息さえみえるほど澄んでいる。鴨の群はまだか、鴛鴦はと思って眺めてもそれらしい影もみえない。いつもの漁をする人が洲のさきから葦のなかを舟を曳いてきたのできいたら水のなかに立ったままふりかえって山を見ながら
「いつも今ごろはもう妙高に雪がくるのですけれど そうすればきますが おととい貝をとりにいったら琵琶が崎の入江に真鴨が十羽ほどと鴛鴦もいました」
という。それは南の岡の隣に琵琶の形に曲りでた岬にそうて蜥蜴の尾のように細く入りこんだ入江である。