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しまもり
島守
中 勘助
「犬 附島守」岩波書店、1924(大正13)年5月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,146 字 · 37 页
住むべき家もないゆえ鴨のように迷ってきてこの島に宿をもとめたのである。寂しいといえば都会の喧噪のうちにすこしの理解もない人びとの群にまじってるよりも寂しいことがあろうか。ここは湖の離れ島である。さりながら日月は追いあう水島のごとくにして朝夕に島を照して忘れることはない。私はこれらの木や、鳥や、虫や、魚やと友となり、兄弟となって美しい姉妹の神を送り迎えている。私は今ひとりになって世のさかしらな人びとに愚かな己の姿を見る苦しみからのがれ、またいかに人間はつまらぬ交渉をつづけんがために無益に煩わされてるかを知った。世のあさましいことは見つくしまたしつくした。今はただ暫しなりとも清浄な安息を得たいと思う。旅人よ、私はおんみらがかしましいだみ声をもってこの寂寞を破ることをおそれるばかりである。
島にひとりいれば心ゆくばかり静かである。読書と冥想のひまにはわが穴を嗅ぎまわる獣のように島のうちを逍いあるく。その芙蓉の花の花びらに虻のとまったほどのこの島にも雨につけ風につけなにかの新しいことがないでもない。栗の枝が吹き折られたこと、鳥が蜆の殻を落していったこと……それらは島の歴史に残るべき大きな出来事である。