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くずれるおにかげ

崩れる鬼影

海野 十三

「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页

青空文庫

――警察が出ました。

「モシモシ。小田原署ですか。大事件が起りましたから、早く医者と警官とを急行して貰って下さい」

「大事件? 大事件て、どんな事件なんだネ」

向うはたいへん落付いています。

「兄が天井に足をついて歩いていましたが、下におっこって気絶をしています。いくら呼んでも気がつかないのです」

「なにを云っているのかネ、君は。兄がどうしたというのだ」

「兄が天井に足をつけて歩いていたんです」

「オイ君は気が確かかい。こっちは警察だよ」

ああ、これほどの大事件を報告しているのに、警察では一向にとりあってくれないのです。私はヤキモキしてきました。

「まだ大事件があるのです。ここの主人が、先刻フワフワと空中を飛んで門の上をとび越え、川の向うの森の方へ行って見えなくなりました」

「なアーンだ。そこは飛行場なのかい」

「飛行場? ちがいますよちがいますよ。ここの主人は飛行機にも乗らないで、身体一つでフワフワと空中へ飛び出したのです」

「はッはッはッ」と軽蔑するような笑い声が向うの電話口から聞えました。「人間が身体だけで空中へ飛び出すなんて、莫迦も休み休み言えよ。こっちは忙しいのだから、そんな面白い話は紙芝居のおじさんに話をしてやれよ」