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くずれるおにかげ
崩れる鬼影
海野 十三
「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页
影というからには、どこかに映ったものでありましょう。あのときは――そうです、満月が皎々と照っていました。今はもう屋根の向うに傾きかけたようです。月光に照らされたものには影が出来る筈です。影というのは、その影ではないでしょうか。あの場合、満月の作る影と考えることは、極めて自然な考えだと思いました。すると――
(あの満月に照らされて出来た影なのだ。それはどこへ映ったか?)
私は首をふって、改めて室内を見まわしてみましたが、
(ああ、この窓に鬼影が映ったのだッ)
と思わず叫び声をたてました。そうだ、そうだ。兄はこの部屋に入る前までは「鬼影」などと口にしなかったではないですか。これはこの室に入って始めて鬼影を見たとすれば合うではありませんか。しかもこの室の、この窓硝子の上に……
私はツカツカと窓硝子の傍によりました。そして改めて丸く壊れた窓硝子を端の方から仔細に調べて見ました。破壊したその縁は、ザラザラに切り削いだような歯を剥いていました。私はそこにあったスタンドを取上げてどんな細かいことも見遁すまいと、眼を皿のようにして観察してゆきました。
しかし別に手懸りになるようなものも見えません。