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くずれるおにかげ

崩れる鬼影

海野 十三

「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页

青空文庫

「すると、あの小田原の町に現れていたサーベルを腰に下げた老人や、白衣を着た若者なども、逃げかえったんですか」

「いや、あれは……」と博士はすこし赧くなって云いました。「あれは私と黒田さんなんです。二人はルナ・アミーバに捕って、あのとおり彼奴の身体に捲きこまれていたのです。だからいかにも私たちは空中に飛んでいるように見えましたが、実はルナが飛んでいたわけで、私たちは、ルナの上に載っているようなものでした。そして彼奴は、私たちを勝手に裸にしたり、そして間違ってサーベルや白衣を着せたりしたのです」

「ああ、そうでしたか」

私は始めて、空中を飛ぶ男の謎がとけたのを感じました。

「では、小田原や隧道で暴れたのも、先生たちの力ではなかったのですネ」

「そうですとも。あれは皆ルナ・アミーバーの一隊がやったことです。たまたま中で見える私たちだけが騒がれたわけです」

「しかし先生、あの崩れる鬼影はどうしたのです。硝子窓に、アリアリと鬼影がうつりましたよ」

「あれはこのルナの流動する形が、うっすりと写ったのです。月の光に透かしてみると、ほんの僅か、形が見えます。それはあの月光に、一種の偏光が交っているから、月光に照らされて硝子板の上にうつるときは、ルナの流動する輪廓が、ぼんやり見えたのですよ」