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くずれるおにかげ
崩れる鬼影
海野 十三
「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页
私達は壁際にペタリと尻餅をついたことにも気が付かない程でした。バラバラとなにか上から落ちてくるので、気がついて天井を見ますと、そこには大きな穴がポッカリ明いていました。
「オヤオヤ。ルナが逃げたッ」
「どうして逃げたんだッ」
「弱っていたと思っていたがな」
「いや、これは私の失敗でした」と博士は別に駭いた顔もせずに、静かに口を切りました。
「どうしたんです」
「いえ、彼奴の入っている容器を真空にしたのがいけなかったんです」
「なぜッ」
「真空は、彼奴の住む月世界の状態そっくりです。だから弱っている彼奴は、たちまち元気になって、器を破って逃走したのです。ああ、失敗失敗」
こんなわけで、折角生捕ったたった一匹のルナ・アミーバーでありましたが、惜しくも天空に逸し去ってしまったのです。
いやはや、残念なことでありましたが、谷村博士を責めるのもどうかと思います。ルナが逃げてしまったのですから、「崩れる鬼影」について私の申上げる話の種も、もうなくなりました。