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くずれるおにかげ

崩れる鬼影

海野 十三

「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页

青空文庫

「あれは御主人だったのですか。向うの方へゆかれましたが、追駈けてももう駄目です」

「駄目でしょうか」婦人は力を落して、ヘナヘナと地上に膝をつきました。兄は直ぐに気がついて助け起しました。

「さあ奥さん。こうなれば私達は落付きをとりかえさなければなりません。詳しいお話をうかがうことによって、一番いい方法が見つかることでしょう。しっかり気をとりなおして、一伍一什を話して下さい」

「ああ、恐ろしい――」老婦人は顔に両手を当てると、何を思い出したのか、ワッと泣き出しました。

「奥さん、お家の中へお送りしましょう」

「ああ、家の中ですか。いえいえそれはいけません。家の中には、まだ恐ろしい魔物が居るにきまっています。貴方がたもきっと喰われてしまいますよ。ああ、恐ろしい……」

「魔物ですって?」兄はキッとなって老婦人の顔を見つめました。「魔物って、どんな魔物なんです」

「そいつは鬼です。あの窓のところに、その魔の影が映りました。あれは人間でも猿でもありません。しかし何だか判らないうちにその鬼の形がズルズルと崩れてしまったのです。崩れる鬼の影――ああ、あんな恐ろしいものは、まだ見たことが無い」