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くずれるおにかげ
崩れる鬼影
海野 十三
「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页
手足はじっとしています。別に動かしもしないのに、宙を飛んでいるのです。どんな顔をしているかと見ましたが、生憎顔が上を向いているので、下からはよく見えません。しかし白い服と思ったのは、お医者さまがよく着ている手術着のようなものでした。
兄と私は、こんどは後から伸びあがって、飛んでゆく人の姿を見つめていました。白衣の人は、尚もフワフワと飛びつづけてゆきます。そしてだんだん高く昇ってゆきます。深い谿が下にあるのも気がつかぬかのようにそこを越えて、やがて向うの杉の森の上あたりで姿は見えなくなってしまいました。私達は悪夢から覚めたように、呆然と立ちつくしていました。
「不思議だ、不思議だ」
兄は低く呟いています。
そこへバタバタと跫音がして、年とった婦人が駈けてきました。さっき窓から半身を乗りだして救いを呼んでいたのは、この婦人でしょう。家の中からとびだして来たものです。
「ああ、貴方がた、主人はどこへ行ってしまったでしょう」
老婦人は紙のように蒼白な顔色をしていました。両手をワナワナと慄わせながら、兄の胸にとびついて来ました。
「奥さん、しっかりなさい」と兄は老婦人の背をやさしく撫でて言いました。