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かわなみ
川波
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页
「ごいっしょで、よかったわ。安心したせいか、がっかりしちゃった」
豊川はうるさくなったらしく、
「そんな話、面白くないね」
と突っぱなすようにいうと、倫子は勝気らしいよく透る声で、
「戦争の話ですもの、面白いわけはないでしょう」
と笑いながらやりかえした。
「まあいいわ。飲みましょう、お別れの盃よ」
「別れもくそもあるか。英国へ帰るくらいで大騒ぎをすることはない。好きな亭主のところへ帰るんだろう」
「それは、あなたのようなゝとはちがうのよ。治兵衛さん、それで、あなたは?」
「君が船で行くなら、おれはシベリヤで行く。暑い中で、四十五日も世話をやいたうえ、バカ亭に誤解されでもしたら、立つ瀬がないからね」
三池の焼餅と早合点は有名なもので、巴里へ遊びに行った倫子の帰りが一日でも遅れると、クロイドンから旅客機で迎いに行くというはげしさだった。最近はいよいよ狂的になって、居もしない倫子のことで言いがかりをつけ、大使館の若い連中で、迷惑をしたのがだいぶ居るという噂だった。
「あなたなんか、宛にしているもんですか。和田さんがいっしょだから、平気よ」
「せっかくだが、急ぐから、豊川といっしょにシベリヤ廻りにするよ」