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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

そうして一家が寝鎮まった十二時頃を見計って杉扉の鍵を開けたが、想像の通り、器械イジリに慣れている一知にとって、旧式の鍵を外すくらいは何でもない事であった。それから暫く奥座敷の寝息を窺って、誰も目醒めない様子を見澄してから、丸裸体となって新しいメリヤスの襯衣に着かえ、軍隊手袋と靴下を穿ってサテ藁切庖丁を取出してみると、新しい柄ですこしグラつくようである。そこで草川巡査が察したように、勝手口から外に出て、山梔の蔭の砥石に柄を打つけて抜けないようにすると、何度も何度も両手で振ってみて練習をしたが、中学時代に撃剣を遣っていた御蔭であったろう。スブリをかけている中に、さしもの重たい藁切庖丁が、さまで重たく感じないようになった。

それから大胆にも奥座敷の電燈を灯けて一気に兇行を遂げ、血にまみれた兇器と襯衣や何かを一纏めにして、兼ねてから空隙を作っておいた堆肥の下に鍬の柄で深々と突込み、アトをわからないように崩し塞ぎ、附近の小川で顔や頭や手足を洗い清め、そのまま寝巻を着て寝床に潜り込んだが、又気がついて起上り、敷石の上を匍いながら、顔を洗った小川の縁に来て、何か痕跡が残っていないかと、星明りに透かしてみたが、その時の方が余程恐ろしくて、寝床へ這入ってからもスッカリ眼が冴えてしまった。