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こうじょうさいぼう

工場細胞

小林 多喜二

小林多喜二『工場細胞』。同一底本的分册已合并为一书。收入:工場細胞、独房、母たち。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,234 字 · 184 页

青空文庫

――ガラッと障子が開いた。見なれない背広が二人そこへ突ッ立った。――失敗ったと思った。彼には初めての経験だった。――だがこうなってしまった時、彼は不思議に落付きを失っていなかった。

――どなたです?

――フン。

背広の顔が皮肉にゆがんだ。

――本署のものだよ。

彼はだまって上へあがった。父はまだ帰っていないのか、居なかった。

――まア/\、お前!

母親は顔色をなくして、坐ったきりになっていた。待たしていた間、この可哀相な母親が背広にお茶を出したらしく、「南部せんべい」のお盆と湯呑茶碗が二つ並んでいた。それを見ると、彼は胸をつかれた。彼は次を云えないでいる母親に、

――何んでもないんだ。直ぐ帰るよ。

と云った。

彼は二人の背広にポケットというポケットを全部しらべられた。家の中はすっかり「家宅捜索」をうけて散らばっていた。

土間で靴の紐を結びながら、背のずんぐりした方が、

――こんな所に関係しているものがいようとは思わなかったよ。

と云った。

彼はその言葉の中に、当り前でない意味を聞きとった。彼は河田に云われたことを守っていた。今迄一度だって、彼等に顔を知られたことがなかった筈だ。