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こうじょうさいぼう

工場細胞

小林 多喜二

小林多喜二『工場細胞』。同一底本的分册已合并为一书。收入:工場細胞、独房、母たち。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,234 字 · 184 页

青空文庫

二十二

河田でも云ったのだろうか。そんなことは絶対にない。とすれば――。彼は何かあったんだ、と思った。

母親は坐ったきりだった。彼は何か云えば、それッ切り泣けてしまうような気がした。

――行ってくるよ。

彼はそして連れて行かれた。

二十二

初めての臭い留置場は森本を寝らせなかった。そこは独房だった。

彼は澱んだ空気の中に、背を板壁に寄らせたまゝ坐っていた。――色々な考えが、次ぎから、次ぎから頭をかすめて行く。然し不思議に恐怖が来なかった。ただ頭だけが冴えてくる一方だった。

明け方が近かった。然しまだ明けなかった。切れ/″\に、それでも、お君のことを夢に見たと思った。寒かった。彼は顎を胸に折りこんで、背を円るめた。

コツ、コツ……コツ、コツ、コツ……。

冴えていた彼の耳が、何処から来るとも知れないその音を捉えた。耳をそばだてると、その時それが途絶えた。彼は息をひそめた。耳がジーンとなっていた。ものゝすべてが凍てついていた。

コツ、コツ、コツ……コツ……コツ……。

彼は耳を板壁にあてた。――と、それは隣りからだった。然し何の音か分らなかった。彼は反射的に表へ気を配った。