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さちおせんせいへのついおく
左千夫先生への追憶
石原 純
「アララギ」アララギ発行所、1919(大正8)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,117 字 · 9 页
私はやがて故国に帰って先生に話そうと思っていたいろいろな事がらを、そのままにしなくてはならないようになってしまったことを、その時どんなに憾んだかしれない。
西洋の文字を知らなかった先生は、欧州にいる私に対する手紙の宛名を書くのに、いつも斎藤君を煩わさねばならなかったが、そういう面倒をあえてしては、いつも真情のこもった手紙をはるかに送られたことを、私はまことにありがたいと思っている。ドイツから送った私の歌に対して、「アララギ」第六巻第三号で「歌の潤い」という歌論のもとで、大いに褒められ、それが先生の最後に近い歌論ともなったことは、私にとってまことに感銘のふかいところである。それはこのころ斎藤君などが新らしい道に進もうとされて、先生からいくらか離れるようにも見えることを寂しく思われたのにもよることと思うが、ともかく私はこのことを忘れるわけにはゆかない。
先生が逝かれて、もう七年も過ぎたかと思うと、今さらに年月の経つのがはやい気がする。先生がいままで達者でいられたならどんなであろうなどとも思っていると、近眼鏡を二重にかけた先生のおもかげが眼前にありありと見える気がする。