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ほ
帆
宮本 百合子
「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页
自ら尾世川の心にも漠然とした感慨が湧いて来たらしく、彼は暫く黙り込んで、自分の鼻から出る朝日の煙を眺めていたが、
「――そろそろ始めましょうか」
吸殻を、灰の堅い火鉢の隅へねじ込んだ。尾世川のところにはたった一つ、剥げかけた一閑張の小机があるかぎりであった。彼は立って、それを室の真中へ持ち出した。
「あ、ちょっと。そこには冠詞がいりますね」
「――DER?」
「そうです。――ではこの文句をすっかり裏から云ったらどうなります。――彼が植物園へ行くことをしなかったなら、こうであったろうと云う風に……」
稽古も終りかけで、応用作文を藍子が帳面へ書いていると、
「ごめん下さい」
神さんが上って来た。そして体を半分階子口の板の間へ置いたまま畳へ片手をつき、ずっと尾世川の方へ一枚のハガキをさし出し降りて行った。
「――何だかうまく行かないな――これで通じますか」
ちょいちょい字をなおしながら藍子は帳面を尾世川の方へ向けた。
「え? え?――ああ出来ましたか」
急いでハガキを置こうとし、猶その方に気をとられ、やっとそれを下へ置いて尾世川は藍子の作文に目を通した。
「結構です。