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あきばしょから
平野零児随想集 らいちゃん
平野 零児
平野零児『平野零児随想集 らいちゃん』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋場所から、寡作流行作家、芸術は短く貧乏は長し、丹波篠山、百まで踊る下中翁、無情な今年の二月、雪解けにすべった丁玲女史、吉川さんの声と眼。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,838 字 · 48 页
無情な今年の二月
二月という月は、私にとって生れ月で、元来ならばまず目出たい月というのだが、今年の二月は相次いで、私の最も親しい人々が数人もあの世へ行ったので、厄月になってしまった。
そのうちでも、村松梢風氏と下中弥三郎翁の死は、わけても傷心なことであった。
梢風さんとは四十年近い交遊であった。知り合ったのは、私がまだ東京に遊学していた大正初年のころで、故馬場孤蝶先生の市ヶ谷田町の書斎であった。
馬場先生は当時文壇随一の座談の妙手といわれ、語学に堪能で、西欧の文学を広く漁り、該博な知識を持ち、慶応大学で大陸文学を講じていたが、学生以外にも多くの文人が、その書斎に集まった。夏目漱石の書斎に集まった木曜会とならび称されていた。
すでに名をなしている文学者の中にまじって、私は先生の書斎のすみで、先輩達が先生を中心に語り合うのを聞いているだけだったが、梢風さんもその中で、先生に劣らぬ座談に長じて、ことに清水次郎長の話は、講談を聞くよりもおもしろかった。
梢風さんと最も親しくなったのは、梢風さんが、死に別れた愛人を見送った後、間もなく京都で結ばれた現在の愛人と、愛の巣を求めていた昭和六年ごろ、私が住んでいた日暮里の同潤会の鶯谷アパートに誘い入れ、近所つき合いをしたことから深まった。