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へいまとうぐいす

平馬と鶯

林 不忘

「少年倶楽部」1927(昭和2年)2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,130 字 · 21 页

青空文庫

鶯の宿

麗かな春の日である。

野に山に陽の光が、煙のように漂うのを見るともなしに見ながら、平馬は物思いに沈んで歩いていた。振り返ると、野路の末、雑木林の向うの空に、大小の屋根が夢の町のように浮んで、霞に棚引いているのが見える。平馬の藩である。行手にもまたほかの町が見えていたが、平馬はべつにそこへ行くためにこの春の野の一本道を辿っているわけではなかった。

ただどこというあてもなしに、歩きながら考え、考えながら歩くつもりでぶらりと家を出て来た平馬である。暖かい太陽の光を背中いっぱいに受けているうちに、いつしか半分眠っているような心持で、この方角へ足が向いたのだった。

平馬。年齢十五歳。身の丈け五尺五寸あまり。顔色あくまでも黒く、眼大きく、鼻高く、一文字の口に太い眉、それに、肩幅が広くて体じゅうに瘤のような筋肉が盛れ上っている――この辺で有名な怪童、威丈夫、剣客。

その平馬がいま打割羽織に野袴、手馴れの業物を閂のように差し反らせて、鉄扇片手に春の野中の道をゆらりゆらりと歩いて行くのだ。人が見たら物騒な武者修業者が流れ込んで来たとでも思うかもしれないが、前後に人もなく、平馬は誰にも逢わなかった。