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こうだあやさんとしんせんどう
幸田文さんと神仙道
中谷 宇吉郎
「幸田文全集第六巻月報」中央公論社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,105 字 · 3 页
私は、小林勇君につれられて、二回ばかり小石川のお宅へ伺い、露伴先生にお目にかかったことがある。文さんにも、その時初めて会った。
露伴先生は、科学に非常に興味をもたれ、というよりも、先生自身が高次元の科学者であったという方がよいかもしれないが、私などの話にも、熱心に耳を傾けられた。その話は『露伴先生と科学』に一度書いたことがある。
私には、露伴先生が、明治以後の日本では、独自の人のように思われる。博学とか偉大さとかいう問題には触れない。古代東洋の神仙道の精神が、先生の心の奥に潜んでいるように思われるからである。もっとも本当は、神仙道のことなどは、何も知らなかったので、先生の文章によって、それを教えられたのである。
神仙道は魔術や幻術ではなく、神秘への憧憬を基調にもった厳しい自己完成である。そして驚くべきことには、その精神は文さんにも遺伝しているようである。
それを初めて感じたのは、文さんの初期の文章で、露伴先生の臨終を書いたものである。生命が肉体を離れて行く時の人間の眼。おびえた文さんが、外の空気を吸おうと、雨戸を開けると、真暗な大気の中で、何か蜘蛛の巣のようなものが、べたべたと顔にかかる。