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こうふくのかんかく
幸福の感覚
宮本 百合子
「婦人画報」1940(昭和15)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,231 字 · 14 页
幸福というものが、あっちからこっちからつつかれ、吟味され、論議されていることはまざまざとうけとれるが、さて幸福の愛らしく全い姿はどこにも描き出されていないことが多い。語る人々もいつの間にやら、幸福の二字が身のまわりにもち来っている観念の妖術にかかってしまうことが多い。第三者は、それらの検討や分析やらを見て、ああ何と熱心にいじられている事だろう! けれども、ここに幸福の輝きは溢れていないと、更に一層ゆくえさだかならぬ自身の幸福への模索に踏み出すのである。
人間の文明がおさなければおさないほど、自然界と人間社会とのできごとを、単純な観念で固定させて来たことは、今日までの歴史に面白く伝えられている。たとえば中世の人間は地球はひらったい台のようなもので、その両端には地獄があると考えていた。地獄へおちる恐怖という宗教からの恐怖と、科学の未発達からおこった未知の世界への暗い恐怖という動物的な恐怖とを一つにして、地のはてというものに対する恐怖を神聖なものとして守っていた。星を観測して地動説をとなえたガリレイが、そういう固定観念にぶつかって、生命の危険におびやかされたことを、今日の若い娘たちは、あらまアと彼のために同情し当時の権力の暗愚を憐みまた笑うだろう。