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こうふくのかんかく
幸福の感覚
宮本 百合子
「婦人画報」1940(昭和15)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,231 字 · 14 页
物質の世界と心の世界とは、人間の文明の進むにつれて、だんだん野蛮な二元的解決から解放され、そのものの現実的でまた自然な動的な相互関係の統一のうえに理解されて来ている。
幸福というような、人間の社会生活の環境から生まれた一つの観念は、そのような人間精神の活動の結果もたらされたひろまりにつれて、はたしてどのくらい進歩して来ているだろうか。
天国地獄、地獄極楽という観念の絵草紙が幸福の模様としてきめられていた時代、人々はぴんからきりまでのいとわしく苦しいものを日々の現実から抽象して地獄へあてはめ、ぴんからきりまでの望ましいものをあつめて天国の構造とした。そこへ幸福の観念を固定させたのだが、それに対して、いつの時代にも生存した特別に心情の活溌なある種の人々は、皮肉に人生のありのままを感じ観察していて、例えばイタリーのボッカチオという詩人は坊主くさくかためた天国地獄の絵図を、きわめてリアルに機智的に諷刺し、破壊しようとしている。「デカメロン」の本質はそういうものであった。
十九世紀の目ざましい科学の進歩は、人間の幸福について、それを可能にしまた不可能にする社会の条件を考慮に入れるべきことを知らせた。