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こうふくのかんかく

幸福の感覚

宮本 百合子

「婦人画報」1940(昭和15)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,231 字 · 14 页

青空文庫

これは社会的に生きる人類の幸福を問題とする現実的な幸福探求の道程にとっては、実に画期的な発展であった。人間が社会以外のところに生存しないものであるという生存の条件へのはっきりした理解は、社会と個人とのいきさつの研究の間に幸福の課題をもといてゆこうとする根本的な方向を決定したのである。

そうきくと、私たちの心にまた別な疑問がおこって来はしまいか。そんなにはっきり幸福の具体的な解決が社会と個人とのいきさつの間に、その社会全体の進歩において見出されると分っているのなら、何故人間はさっさと万億人の希望であるその幸福をうち立ててゆくために全力をつくし合わないのだろうか、と。

私たちが近頃目撃する現代の世界の状態は、人間にそういう幸福への共通な希望と解決の方向がわかっているにしては、まるで逆を行っているように思える。その逆もあんまり逆だといいたいほどでさえある。人類の誇りである智慧さえ、玲瓏無垢な幸福をつくるために役立てられるというより、死力をつくして黒煙を噴き出し火熱をやきつかせるために駆使されているようではないか。

目前の凄じい有様にきもをひやされて、人々はこれらの現実の中に幸福はないと結論し、その結論を更にひろめて、社会と個人のいきさつを、社会全体の進歩の中に見てそこに幸福をうち立ててゆくというような考えかた