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ゆうれい
幽霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页
門の中から一つの人影がすうっと出て来て自動車とすれ違ったが、すれ違う時に、実に瞬間の出来事だった。その顔が自動車の窓からヒョイと覗いたのである。
それがやっぱり辻堂の顔だった、併し、玄関について、そこに出迎えていた書生や女中などの声でやっと元気を恢復した平田氏が、運転手に命じて探させた時分には、人影はもうその辺には見えなかった。
「ひょっとしたら、辻堂の奴生きているのではないかな。そして、こんなお芝居をやって俺を苦しめようというのではないかな」
平田氏はふとそんな風に疑って見た。併し、絶えず辻堂の息子を見張らせてある腹心の者からの報告では、少しも怪むべき所はなかった。若し辻堂が生きているのだったら、長い間には一度位は息子の所へやって来そうなものだが、そんなけぶりも見えないのだ。それに第一おかしいのは、生きた人間に、あんなにこちらの行先が分るものだろうか。平田氏は平常から秘密主義の男で、外出する場合にも召使は勿論家族の者にさえ、行先を知らさないことが多かった。だから例の顔が彼の行く先々へ現れる為には、絶えず彼の邸の門前に張込んでいて自動車のあとをつける外はないのだが、その辺は淋しい場所で、他の自動車が来ればそれに気のつかぬ筈はなく、又自動車を傭うにも近くに帳場とてもないのだ。