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ゆうれい

幽霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页

青空文庫

には必ず書生を伴う様にしていたのも、それもこれも皆ただ一人の辻堂が怖いからであった。平田氏は一代で今の大身代を作り上げた程の男だから、それは時には随分罪なこともやって来た。彼に深い恨みを抱いているものも二人や三人ではなかった。といって、それを気にする平田氏ではないのだが、あの半狂乱の辻堂老人ばかりは、彼はほとほと持てあましていたのである。その相手が今死んで了ったと聞くと、彼はホッと安心のため息をつくと同時に、何んだか張合が抜けた様な、淋しい気持もするのであった。

その翌日、平田氏は念の為に自身で辻堂の住いの近所へ出掛けて行って、それとなく様子を探って見た。そして、腹心のものの報告が間違っていなかったことを確めることが出来た。そこで愈々大丈夫だと思った彼は、これまでの厳重な警戒を解いて、久しぶりでゆったりした気分を味わったことである。

詳しい事情を知らぬ家族の者は、日頃陰気な平田氏が、俄に快活になって、彼の口からついぞ聞いたことのない笑声が洩れるのを、少なからずいぶかしがった。ところが、この彼の快活な様子はあんまり長くは続かなかった。家族の者は、今度は、前よりも一層ひどい主人公の憂鬱に悩されなければならなかった。