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ゆうれい
幽霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页
何十日という間、俺は寝床の中でそればっかり考えていたぞ。その思いが通らないでどうするものか。用心しろ、怨霊の祟というものはな、生きた人間の力よりもよっぽど恐しいものだぞ。
筆蹟がみだれている上に、漢字の外は全部片仮名で書かれていて、随分読みにくいものだったが、そこには大体右の様な文句が記されていた。いうまでもなく、辻堂が病床で呻吟しながら、魂をこめて書いたものに相違ない。そして、それを自分の死んだあとで息子に投函させたものに相違ない。
「なにを馬鹿な。こんな子供瞞しのおどし文句で、俺がビクビクするとでも思っているのか。いい年をして、さては奴も病気のせいでいくらか耄碌していたんだな」
平田氏は、其場ではこの死人の脅迫状を一笑に附して了ったことだが、さて、段々時がたつにつれて、何とも云えない不安がそろそろと彼の心に湧き上って来るのをどうすることも出来なかった。どうにも防禦の方法がないということが、相手がどこからどんな風に攻めて来るのだか、まるで分らないことが、少からず彼をイライラさせた。彼は夜となく昼となく、気味の悪い妄想に苦しめられる様になった。不眠症がますますひどくなって行った。