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しょみんせいかつ
庶民生活
豊島 与志雄
「改造」1952(昭和27)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,353 字 · 21 页
帰ろうとただ一言、ふいに立ち上ることもあった。
或る夜、内山が饒舌になってる時、彼と顔見知りの中村がはいって来た。砂利一件の時に来合せていた粗末な洋装の女の亭主だった。彼はもうだいぶ酒気を帯びていたが、焼酎を取り寄せて貰ってソバを肴にして飲んだ。
「内山さん、だいぶ御機嫌のようですね。」
内山も愛想よく返事をした。
「どうも僕は酒を飲むと、ひどくお饒舌りになりましてね、そのくせ、何を饒舌ったのかさっぱり覚えていないもんだから、あとで困るようなことが起ります。」
「そりゃあ御同様……酒の上のことは、なんでもこう、さっぱりするに限りますよ。聞いたことや見たことを、後々までしつこく覚えてるやつにはかないません。」
「然しそんなのは、生酔いですな。」
「ところが、酔えば酔うほど、その時のことをはっきり覚えてるのがありますよ。うちの女房なんかその方でしてね……。奥さんはどうですか。」
朋子はただ微笑しただけで、何とも答えなかった。
「もっとも、奥さんはちょっと内山さんの相手をなすってるだけで、ほんとにお酔いなさることなんかないでしょうけれど……。」
中村は眉間に皺を寄せて、何やら考え込んだ。