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しょみんせいかつ

庶民生活

豊島 与志雄

「改造」1952(昭和27)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,353 字 · 21 页

青空文庫

内山と朋子が峠の茶屋に来るのは、必ずしも毎日のことではなかったが、後には、少しずつ間を置く傾向が見えてきた。その代り、酒量は殖えてきた。そして、銚子五本を越えると、もう止度がなかった。頑として腰を落着け、おしまいにもう一本と切りぬけ、六という数は面白くないから七にしよう、それよりは八が末広がりでよかろう、八も半端だから十にしてしまおう、打ち止めにもう一本と、巧みに飲み続けた。酩酊の程度は五本でもう充分で、あとは惰性みたいなものだった。

朋子はつつましく控えていて、杯の数少く相手になっていた。もうおやめなすってはと、やさしくたしなめながら、内山の相手をしてるのが楽しそうな様子でもあった。煙草が無くなると、すぐに買いに行った。灰皿が一杯になると、掃除を頼んだ。内山が口淋しそうにしてると、鮨でも取りましょうかと言った。万事に細々と気を配っていた。

内山は酔っ払うと、往々にしてひどく饒舌になった。おばさんや娘さんにくどくどと話しかけ、見知らぬ客へも話しかけた。ソバを食べに来る客たちだから、長居はせず、しばしば入れ代ったが、その誰へでも話しかけた。時によると、中途でふいに黙りこんで、ひどく不機嫌なのか立腹してるのか分らぬ顔つきになった。