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でしのこころ
弟子の心
宮本 百合子
「新家庭」1923(大正12)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,926 字 · 8 页
先生が、試験の点どころか、恐らく学校の成績にさえ、拘泥して居られないことは解っていた。けれども人を観ることの鋭い先生に、出来ない生徒と極めつけられることは、恥しく堪え難いことなのであった。
五年生になってから、私共は教育心理学を教わることになった。そして、先生の人格的の影響は、愈々大きく成った。
一週二時間の教育の時間を、私は如何那に待ち、楽しんだろう。私にとって学問らしい学問は、千葉先生の時間ほかなかった。僅か一時間の課業ではあったが、講義の一回毎に、頭が蓄る知識で重くなるようにさえ感じた。窮屈な文部省の綱目に支配された女学校の課程の中で、教育だけは先生の自由にまかされていたと見え、飢え饑えていた若い知識慾が、始めて満される泉を見出したのであった。
生徒として、私は不規則な我まま者であったが、千葉先生の時間は、一度でもおろそかにしたことはなかった。この時間中だけ、平常妙に表面的に、形式的に扱われている人間と云うものが、真個に生き、意慾し、活動する生存とし、左右から見られ、切り下げられ、探究されるよろこばしさは、例えるに物がなかった。
心理学と云う学問そのものが珍しかったことは争えない。