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かげのないはんにん
影のない犯人
「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 页
狂六はこう考えた。云うまでもなく、多くの疑惑は主として並木先生にそそがれていたのである。
「患者がメッキリ減ってからの先生の目ツキは凄味があるよ。気がちがったんじゃないかなア」
というような観察が行われていた。
ところが並木先生は世間の噂にはおかまいなく、さて、犯人は誰であるか、長男の光一が一番怪しいが、玄斎も狂六もタダモノではないから、どういう奇怪な行動をやるにしてもフシギはない。こう考えて先生は万人を疑ったが、しかも奇妙なことに、彼は医者でありながら、何者が「いかなる薬品をいかに用いて殺したか」ということを考えずに、何者が「いかなる心理によってこの犯罪を犯したか」という心理探究の方にもっぱら熱をあげていたのである。
そこで狂六が並木先生に云った。
「おかしいねえ。アナタ、医者だろう。そのくせ、なぜ、誰がいかなる薬品で殺したかということを考えないのかね。アナタ、つまりそれを考えたくないのだなア、そこで心理問題の方へはぐらして、ごまかしてるんだね。つまりさ、アナタが殺したからだろう」
こう云われても、並木先生は、誰か他の人がそう云われた如くに全然平然として、いつも傍観者のような顔をして安らかな笑いをうかべていた。