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かげのないはんにん
影のない犯人
「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 页
「生意気云うな」
ところが、ある日のこと、光一の妹のマリ子が会社へ出勤するため急いでるとき、ちょうど朝の散歩に肩を並べていた兄に云ったのである。
「お父さんを毒殺したのは兄さんでしょう」
「よせよ」
「ママサンに恋人ができるように仕向けたのも、ママサンが家出するようにそれとなく智恵をつけたのも、兄さんよ。ママサンの恋人って、兄さんの友達のヨタモノじゃありませんか」
「そうかしら」
「しらッぱくれるわね。兄さんて、慾の深い人ね。そんなにまでして、財産が欲しいのかしら」
「ボクもマリ子クンに一言云っておくけどね。お父さんを毒殺したのは案外マリ子じゃないかい。まア、誰が犯人でもいいけどね。次に、財産を独占するために、ボクを殺しさえしなければね」
「お互い様よ。遺産を独占するために、私を殺すのだけは止してちょうだいね」
「お互いに、それは止しましょう」
そして、兄と妹は口をつぐんで右と左に別れたのであった。要するに、誰が犯人だか、見当がつかないらしい。そして、要するに、誰が犯人でもかまわないような変テコリンに無関心な時世が到来したらしいのである。戦争という大殺人の近づく気配が身にせまっているせいかも知れない。