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かげのないはんにん
影のない犯人
「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 页
ひょッとすると、この邸内から追放されるかも知れんということを知って最もショックをうけたのは神蔭流の玄斎先生であった。
御承知の如くに、敗戦後は剣術が禁止されて、神蔭流が一文にもならないばかりか、玄斎その人が民主々義の怨敵の如くに、子供も女房も先生をバカにするのである。
狂六が旅館の共同経営を提唱し、玄斎の堂々たる風采が雇われマスターとして天下一品だと叫んだ時には、そのケイ眼に敬服狂喜したのであった。その瞬間から玄斎は雇われマスターの堂々たる姿に憑かれ、寝てもさめても自分の威風にみちた雇われマスター振りが目から放れない。
玄斎は神蔭流のほかに、裏千家流や梅若流などにも多少の素養を有し、どういうわけだか小さい時から身ナリということに妙にこだわるタチで、そのためか、諸国の織物については変にこまかい知識があった。また布地を集める趣味などもあって、それが敗戦後の生活に大そう役に立ったのであるが、明治、江戸、室町時代ごろまでの布地なども多少は手もとに集めていた。自分の趣味のためではなくて剣術のお出入り先でそれを高く売りつけるような商法を昔からやっておったのである。