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おほりばたさんだい

御堀端三題

岡本 綺堂

柳のかげ「文藝春秋」1937(昭和12)年8月、怪談「モダン日本」1936(昭和11)年9月、三宅坂「文藝春秋」1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,863 字 · 12 页

青空文庫

私も無論に轢かれるものと覚悟した。馬車の馬丁もあわてて手綱をひき留めようとしたが、走りつづけて来た二頭の馬は急に止まることが出来ないで、私の上をズルズルと通り過ぎてしまった。馬車がようよう止まると、馬丁は馭者台から飛び降りて来た。外国婦人も降りて来た。私たちの車夫も駈け寄った。往来の人もあつまって来た。

誰の考えにも、私は轢かれたと思ったのであろう。しかも天佑というのか、好運というのか、私は無事に起き上ったので、人々はまたおどろいた。私は馬にも踏まれず、車輪にも触れず、身には微傷だも負わなかったのである。その仔細は、私のからだが縦に倒れたからで、もし横に倒れたならば、首か胸か足かを車輪に轢かれたに相違なかった。私が縦に倒れた上を馬車が真直に通過したのみならず、馬の蹄も私を踏まずに飛び越えたので、何事もなしに済んだのである。奇蹟的というほどではないかも知れないが、私は我ながら不思議に感じた。他の人々も「運が好かったなあ」と口々にいった。

この当時のことを追想すると、私は今でもぞっとする。このごろの新聞紙上で交通事故の多いのを知るごとに、私は三十数年前の出来事を想い起さずにはいられない。