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おうまじるしはいしゃく

御馬印拝借

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页

青空文庫

虎之助はつぶてのように塁の中へとびおりていった、源七郎は身を伏せたまま敵のようすを見やった。そこから山の斜面の東と南がわに三つの谷がある、敵はそこに陣を築いて攻撃の機を覘っているのだ、今そのいちばん左手の陣地のあたりに硝煙のあがるのが見えた。

「お旗がしら応射をゆるして下さい……」登り口から二番組の刀根五郎太がそう叫んだ、源七郎はならんと答えた、「射つべきときには命令をだす、用意だけして待て」「敵が見えているのです、お願いです、一発ずつでもいいですから射たして下さい」ならんというきびしい声で、しかしようやく五郎太は去っていった。敵はものみにいた二人を狙撃しただけで、間もなく銃声もやみ、あたりはうだるような暑さの下でふたたび元のしずけさにかえった。

思いがけぬところから思いがけぬ問題がおこって、源七郎の心は少なからず当惑した。虎之助がどんな男であるかは自分にはよくわかっている、戦いぶりそのままの直截なくもりのない性質で、決して根もないことをあのように云う男ではない、かれの言葉はおそらく事実であるか、よほど事実に近いものと思わなければならぬ、だがそれならあのときの信夫の態度はどう解したらいい