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おうまじるしはいしゃく

御馬印拝借

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页

青空文庫

刀も或いは折れ或いは鋸のように刃こぼれがしていた。……あまりのすさまじさに康政も従者たちも声が出なかった、しかしむざんとかあわれとかいう感じは些かもない、ただ神々しいまでに壮烈だった、神々しいというよりほかに形容しようのない壮烈なありさまだった。

「源七郎のなきがらを起してやれ……」康政がそう命じた、従者の二人が左右から源七郎の死躰を抱き起した。康政は下賜されてきた陣羽折をとってしずかに進み寄り、生きている者に云うように、感動を抑えた低いこえで云った、「あっぱれよく戦ったな、土田源七郎、……御馬印のことはおゆるしが下ったぞ、そのうえ御着用の陣羽折を遣わすとの仰せだ、おれが着せてやるぞ、いいか……」そしてみずから死躰に着せてやった、「うれしかろう、みごとな武者ぶりだぞ」そのときはじめて康政の眼から涙がはらはらとあふれ落ちた、ひれ伏している従者たちのあいだに嗚咽のこえがひろがった、……蕭々と吹きわたる風が、このすさまじい戦の跡を弔うかのように、松の梢を鳴らしていた。

浜松の留守城にいた三村勘兵衛のもとへ、土田源七郎の書状が届いたのは、先手組の全員が菩提山で討死をとげたという飛報と殆んど同時であった。