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おたか
御鷹
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页
『為ようがないさ! ……。嬰児に紋は付いていないからな』
――いつものように優しい言葉で、
『おれは、おまえを信じるとしよう。だが、阿部白翁のあとを継いで、おれが御鳥見組頭の位置に坐っても、又これからどんな立身をしても、おまえは、おれの行いについてものを云う資格はないぞ。――いいか、それだけは、一緒になった後々の為に、念を押しておくぞ』
――それ程、疑われながらも、夫婦になるかいがあろうか、女として生きている力があろうか。
彼女は、責めない角三郎が、何だか頼りなかった。打って打って打ちすえてくれたら――と思うのであった。いや、ここへ来るまでの間に予期していたように、角三郎が討たれていたら、弁馬の見ている前で、女の心をみせ、立派に復讐してやったものをと、むしろその事に悲しまれて来るのでさえあった。
『馬鹿なやつだ』
血から醒めて、落着きをとり戻すと、角三郎は、死骸の弁馬を愍然と嘲むように、俯っ伏しているその衣服のすそで、刀の血糊をふきながら呟いた。
『――おれが、どれ程、こんな女一人に惚れ込んでいるかと思っていやがる。――最も、弁馬の容貌では、女から惚れられた覚えなどは、生れてから一度もないだろうからな』