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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

鷹は、つかれを知らないのである。空の藍が濃く暗く宵を作ってきても、まだ、未練そうに、旋回していた。――美味そうな血しおの上を。

『ふぶき! ……ふぶき……』

遂に、声をもって、角三郎はさけび出した。明らかに、その青い顔は、鷹に就て十何年にもなる飼主の自信を失っていた。

『ふ、ふ、ふぶき……』

角三郎は、何か、やわらかい温みのある物につまずいて、その上へ、膝も手もついてしまった。

『やっ? ……ば、ばかっ……おいっ……おいっ……お悦っ』

お悦は、弁馬の持っていた刃で自分を突いてもう死んでいた。――角三郎にしてはめずらしい程、度を外した狼狽の声と、気狂いじみた眼ざしをして、その体を、抱き起そうと試みたが、お悦の蝋みたいな指は、固く、弁馬を抱いていて離れなかった。

――魔みたいな笑い声が、二日月のあたりで聞えた。黒い物体は、飢えた意慾を他に求めるように、どこかへ飛んで行った。

(昭和十一年二月)