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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

父の白翁の眼鑑でも、角三郎は、御鷹をあつかうことにかけて、天才だとさえ云っている。将軍家のお覚えもよいし野駈といえばいつも殊勲を立てるのは彼の人と決まっている。上司のうちでも、角三郎を賞めない人はないというし――何よりは又、自分に対しても優しい。

弁馬などとは、比較にならない。なぜ私は、一時でも、弁馬の強迫に負けたのだろう。あの押しのつよい黒あばたに。

お悦は、それだけを、悔いていた。

『お嬢様、おあがりなさいませ』

小間使いが、敷物を部屋にすすめる。

『ありがとう。……でも、ここが暖かですから』

『何ですか、お悦様がおいでになったら、これをお渡しするようにと、若様が置いていらっしゃいましたが』

『あ……御鷹小屋の鍵ですね』

『きっと、お帰りが遅いおつもりではないでしょうか』

『そうね……』

将軍家の吹雪を、今日、自分が取りに来ることを、何うして知っていたのかしら?

お悦は、鍵を持つと、御鷹部屋へ入って行った。父が雛から飼い馴らした吹雪がそこの止まり木に、御野駈の晴の日を待つように、朱房を脚につけて、網窓から映す陽に琥珀いろの眼をぎらぎらさせていた。

ふと見ると、その脚に、結び文が付けてある。