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びしょう

微笑

豊島 与志雄

「雄弁」1919(大正8)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,995 字 · 43 页

青空文庫

そして再び下りて来なかった。屹度そのまま駅から出て行ったものであろう。

私は益々深い疑問に囚えられた。そしてその頃から、「油断は出来ないぞ」という気がした。

二回に一度位は大抵彼の姿が見られた。姿が見えない時には、彼が何処かに隠れているような気もした。然しやはり私達は乗客の誰かに口を利くことは続けていた。

所が或る時妙なことを坂口からきいた。二三日前一人の男が坂口の所へ訪ねて来て、私の身分を調べて行ったそうである。「少し縁談のことで。」とその男は云ったそうである。私がいつも火金両日にやって来て十二時になると碁の勝負もそのままにして立上るのを不審に思っていた坂口は、そしてまたその頃私が急に元気よくなったのを怪しんでいた坂口は、こうつけ加えた。「君も少し用心して身を慎んだがいいね。」

何だか様子がおかしいので、私はそのことを帰りに村瀬に話してみた。すると村瀬は、一寸考えていたが、はたと膝を叩いた。

「分った。実は僕の方にもそういうことがありましたよ。変な男が僕の行く球屋へも来ましてね、下手な球をつきながらそれとなく、僕の身の上を聞いて行ったそうです。縁談だと云ってさんざんお上さんに冷かされた所です。