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こころのかわ

心の河

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,442 字 · 37 页

青空文庫

宿題は、代々解かれきれず、彼女にまで伝えられた。

さよは、自分が受けとったままの白紙で、或は半端な数行で、力の足りなさを示したままで、次の娘の代に譲りたくなかった。何とか答を見つけ出し、祖母や母の感傷なしに、

「私はこれをこう解いた。――お前は何と思う? どう解きますか」

と云い得たかった。

彼女は、自分の一生までが、祖先の女性達同様、一つ涙、同じ苦情、生きたいだけ生ききれない思いで過るかと思うと、安心して良人と論判してさえいられない心持になった。

さよは、顔を押えていた手をどけた。そして、深い溜息をつき、額に乱れかかった後れ毛をかきあげた。

見ると、保夫は、机の一方の端に頬杖をつき、人さし指と中指との間にはさんだ煙草から、香もない煙を張り合いなく立ち昇らせたまま、当もなく前方の庭の宵闇を凝視している。が、さよは、一目で、彼の注意は見かけによらず、怠りなく自分に向って注がれているのを直覚した。彼は全態で「ああ、すっかり不愉快にさせられた。仕事も何も出来はしない。お前のせいだぞ」と語っている。而も、その陰から、彼女がそれを感じて気の毒がり「わるかったわ。