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しんじゅう

心中

森 鴎外

「中央公論」1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,515 字 · 17 页

青空文庫

親類も川桝の店が、料理店ではあっても、堅い店だと云うことを呑み込んで、とうとう娘の身の上をこの内のお上さんに頼んで置いて帰ってしまった。それが帰ると、又間もなく親類だと云って、お蝶を尋ねて来た男がある。十八九ばかりの書生風の男で、浴帷子に小倉袴を穿いて、麦藁帽子を被って来たのを、女中達が覗いて見て、高麗蔵のした「魔風恋風」の東吾に似た書生さんだと云って騒いだ。それから寄ってたかってお蝶を揶揄ったところが、おとなしいことはおとなしくても、意気地のある、張りの強いお蝶は、佐野と云うその書生さんの身の上を、さっぱりと友達に打ち明けた。佐野さんは親が坊さんにすると云って、例の殺生石の伝説で名高い、源翁禅師を開基としている安穏寺に預けて置くと、お蝶が見初めて、いろいろにして近附いて、最初は容易に聴かなかったのを納得させた。婿を嫌ったのは、佐野さんがあるからの事であった。安穏寺の住職は東京で新しい教育を受けた、物分りの好い人なので、佐野さんの人柄を見て、うるさく品行を非難するような事をせずに、「君は僧侶になる柄の人ではないから、今のうちに廃し給え」と云って、寺を何がなしに逐い出してしまった。